黒川 一美
日本FP協会 AFP認定者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学院修了後、IT企業や通信事業者のセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。
2024年7月29日
個人事業主
店舗開業
パン屋を開業したいと考えたとき「開業準備はどうやって進めればいいのだろう」「店舗運営の経験がないけれど大丈夫だろうか」などと不安を感じる人もいるかもしれません。パン屋の開業にあたっては、コンセプトの設計から物件選び、資金調達、資格取得など、やらなければいけないことがたくさんあります。自分の理想のパン屋を開業するためには、これらの準備について事前に確認しておくことが大切です。
ここでは、パン屋の開業の流れや必要な開業資金、資格など、パン屋を開く上で押さえておきたい準備について解説します。
未経験でも、パン屋を開業することは可能です。しかし、パンづくりの経験がなければ、当然ながらパン屋を開業してもパンを製造することができません。そのため、パン屋を開業し、運営していくためには、一定のパン製造技術が必要といえます。
パンづくりの技術を身につけるには、専門学校で学ぶ方法や実際にパン屋で働いて経験を積む方法があります。そのほか、フランチャイズに加盟し、フランチャイズチェーン本部の研修を受けるという選択肢もあります。
パン屋の開業にあたっては、しっかりした事前準備が重要です。パン屋は店舗数が多い上、コンビニエスストアやスーパーなども競合店になります。そのなかで新規にパン屋を開業し、継続的に運営していくには、自店舗ならではの創意工夫が必要です。
パン屋を開業するには、一般的に1年ほどの準備期間がかかるといわれています。まずは下の図で全体的な流れをつかんでから、一つひとつの準備について詳しく見ていきましょう。
■パン屋開業までの準備と流れの目安
パン屋を開業するためにまず行うべき準備は、コンセプトの設計と事業計画書の作成です。これらは、パン屋開業だけではなく、開業後に継続的な事業にしていく上でも重要な準備です。
コンセプト設計とは「どんなパン屋にしたいか」というテーマや方向性を具体的に考えることです。
コンセプトの設計は、のちに行う物件選びや資金計画、内装工事などにも大きく影響します。どんなパンを販売するのか、こだわりたいポイントは何か、テイクアウトのみかイートインも可能にするかなど、できる限り具体的にコンセプトを設計しましょう。
コンセプトを考えるときに役立つのが「5W2H」の手法です。5W2Hとは、「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰に)」「What(何を)」「Why(なぜ)」の5Wと「How(どのように)」「How much(いくらで)」の2Hの要素から情報を整理するフレームワークです。
たとえば、次のように自分の目指したいパン屋を5W2Hで考えてみることをおすすめします。
<パン屋のコンセプト設計例>
コンセプトが固まったら、次に取り掛かるのが事業計画書です。事業計画書は、事業内容と収支計画をまとめた書類のことで、金融機関などから融資を受ける際に必要になります。また、融資を受ける予定がなくても、事業計画書を作成することで、コンセプトが実現可能かどうかを確認でき、開業後に事業計画書を見返すことで、コンセプトの確認やモチベーションアップにも役立ちます。初期投資額や将来の収支を数値として想定するためにも、融資の有無にかかわらず事業計画書を作成しておくとよいでしょう。
事業計画書には、開業動機、店のコンセプト、店舗情報、雇用計画、資金計画、収支計画などを具体的に記載します。特にこだわりの原材料をつかいたい場合などは、仕入れルートも含めた仕入れ計画も入念に準備しておくことをおすすめします。
日本政策金融公庫のWebサイトに「創業計画書」としてテンプレートがありますので、参考にしてみてください。
日本政策金融公庫「創業計画書」については、こちらのページをご覧ください。
コンセプト設計や事業計画書の作成と並行して、物件選びを進めます。店舗を構える場所が決まらないと、設備投資に必要な資金や収支の見通しも立ちませんし、融資の申込みをする際に店舗の説明をすることもできません。そのため、資金調達よりも先に物件探しを行い、気に入った物件を仮押さえしておきましょう。
物件取得に必要な費用は、居抜き物件か、内装が一切施されていないスケルトン物件かによっても異なります。また、賃料が安くても、内装工事費用まで含めると高額な費用がかかってしまう場合もありますし、そもそも自分が希望する工事ができない場合もあるため、物件選びの段階から施工業者に相談しておくとあんしんです。
パン屋を開くには、小規模な店舗でも数百万~1,000万円程度の開業資金が必要になるといわれています。日本政策金融公庫の「2023年度新規開業実態調査」によると、開業資金(全業種)の平均は1,027万円、中央値は550万円となっています。
パン屋を開業する場合は、物件の費用や厨房設備、看板、内外装、備品などの用意が必要になります。加えて、開業後の家賃や水道光熱費、仕入れ代といった運転資金についても、忘れずに準備しておかなければなりません。特に、物件取得費や内外装工事費、厨房設備などは高額になりがちです。また、物件取得費は、店舗の地域や立地によっても大きく変わってきます。費用を抑えるなら、厨房設備や内外装をそのままつかえる居抜き物件を探すのもよいでしょう。
開業資金を自己資金だけでまかなうことが難しい場合は、補助金や助成金を利用するのもひとつの方法です。パン屋の開業時に利用できる補助金や助成金には、全国の商工会議所・商工会による「小規模事業者持続化補助金」のほか、各自治体が実施している制度もあります。補助金や助成金、創業支援に関する情報は、国が全国に設置した無料経営相談所「よろず支援拠点」などでも入手できるので、チェックしてみてください。
よろず支援拠点については、こちらのページをご覧ください。
店舗の場所が決まったら、コンセプトに沿った内装デザインを決め、内装工事を行います。内装工事費を抑えたい場合は、居抜き物件や、元々コンセプトに合った内装が備わっている物件を選ぶとよいでしょう。
また、内装工事をはじめる前には、保健所に店舗の図面を持参し、事前相談を行います。パン屋を開業するには保健所への許可申請が必要になります。この許可申請にはさまざまな要件が定められており、基準をクリアしないとパン屋の営業をスタートすることができません。都道府県によって許可の要件が異なる場合もあるため、内装工事の着工前に管轄の保健所に図面を持参し、問題がないかを確認しておくとあんしんです。
パン屋の開業にあたっては「食品衛生責任者」の資格が必須です。食品衛生責任者は、食品関係施設において衛生管理を担う責任者のことです。食品を扱う店舗では、必ず1店舗につき1名以上の食品衛生責任者を置かなければなりません。従業員のなかから選任しても問題ありませんが、まだスタッフのいない開業準備段階では、経営者が自分で取得するほうがスムーズといえまです。
なお、食品衛生責任者になるには、各都道府県が実施する講習会を修了する必要があります。講習会は管轄や食品衛生協会が実施しており、地域によって日程は異なります。時期や地域によって予約がとりにくい場合もあるため、開催状況を確認しておくとよいでしょう。
さらに、店内の客席数と従業員数の合計が30人以上になる場合は「防火管理者」の資格も必要です。防火管理者の資格は、地域の消防署などで開催される防火管理講習を修了すると取得できます。
また、必須ではありませんが「パン製造技能士」の資格を取得していると、パン屋の営業に役立ちます。パン製造技能士は、パンづくりのスキルを証明する国家資格で、2級・1級・特級の3つの級に分かれています。それぞれの級には、所定の実務経験などの受験資格があるため注意が必要です。
店舗の内外装工事と並行して、必要に応じてスタッフを募集します。パン屋は一人でも開業できますが、パンの製造から販売までを店舗で行う場合は、ある程度の人手が必要になる場合が多いでしょう。パンづくりの経験がある人や、明るく接客できる人など、必要なスキルや店舗のコンセプトに合わせて探しましょう。
どのようなパンを作るのかを決め、必要な設備や備品を用意します。パン屋に必要な設備・備品は、オーブンや釜、発酵器(ホイロ)、ニーダー(生地づくり用のこね機)、ミキサー、フライヤー、パン型、めん棒などです。特に厨房設備は高額なものが多いため、コストダウンするには中古品の購入やリースの利用などを検討するとよいでしょう。
開店後の会計業務の効率化や顧客満足度の向上を考え、ターゲット層に合わせたキャッシュレス決済の導入を検討しておくことをおすすめします。特にパン屋の場合、お客さまが購入したパンを袋に詰めながらレジ操作を行うため、現金のやりとりが不要なキャッシュレス決済は、衛生面でも大きなメリットになります。パン屋の場合、利用金額も比較的少額なので、クレジットカードや電子マネーなどのほか、最近利用者が増えているQRコード(バーコード)決済との相性もよいでしょう。
パン屋のd払い導入事例は、下記の記事をご覧ください。
パン屋開業時の広告宣伝は、集客の重要なポイントです。特に現在はインターネットで店舗探しをする人が非常に多いため、ターゲット層を意識したWebサイトの開設は必要不可欠といえます。そのほか、SNSの活用や口コミサイトへの登録など、できるだけ多くの人の目に触れるような工夫を心掛けましょう。
また、近隣への告知は、チラシの制作・配布も効果的です。オープニングキャンペーンとして、近隣にお得なクーポンなどを配布するのもひとつの方法です。
パン屋を開業するには、主に次のような届け出や許可申請が必要です。提出先や提出期限を確認し、漏れのないように手続きをします。販売するメニューや自治体によっては必要になる書類や提出期日が異なる場合もあるため、必要な手続きに迷ったときは行政機関の窓口などで相談するとよいでしょう。
■パン屋開業に必要な主な届け出・許可申請
届け出名 | 届け出先 | 対象 | 提出の目安 | |
---|---|---|---|---|
営業許可 | 菓子製造業許可申請 | 保健所 | 菓子パンや食パンを製造・販売する場合 | 開業予定の2~3週間ほど前までなど(自治体によって異なる) |
飲食店営業許可申請 | 店内にイートインコーナーを設けて、食事や飲み物を提供する場合※ | |||
防火対象物使用開始届出書 | 消防署 | 建物や建物の一部を新たに使用しはじめる場合 | 使用開始7日前まで | |
個人事業の開廃業等届出書 | 個人で開業する場合(法人ではない場合) | 開業日から1か月以内 ※青色申告を希望する場合は、併せて「青色申告承認申請書」を提出しておくとよい |
||
事業開始等申告書 | 都道府県 | 個人で開業する場合(法人ではない場合) | 東京都の場合、事業開始の日から15日以内(自治体によって異なる) |
※食品衛生法が改正され、2021年6月から菓子製造業の許可で、サンドイッチなどの調理パンの製造が可能となり、お客さまが購入したパンに簡単なドリンクを添えて施設内で提供することも可能になっています。詳しくは管轄の保健所に確認をしてください。
パン屋は多くの人にとって身近な存在ですが、その分ライバル店も多くなります。パン屋を開業後、安定した経営を続けていくためには、コンセプトに沿った立地やターゲットに合わせた広告宣伝はもちろん、経費を回収して利益を出せるような商品単価の設定を行うことが大切です。加えて、ポイントカードを作成する、他店と差別化できるアピールポイントを打ち出すなど、リピーターを増やす工夫を心掛けるとよいでしょう。
パン屋を開業するために必要な準備は多岐にわたりますが、なかでも注意したいのが各種手続きや届け出です。店舗の業態や規模などによって手続きや届け出が異なるため、自分の店舗の場合、どのような申請が必要なのかを事前に確認する必要があります。
また、近年のキャッシュレス決済推進の動きを考えれば、キャッシュレス決済の検討も忘れずに行いたい開業準備のひとつです。
パン屋の開業にあたってキャッシュレス決済を導入するなら、ドコモの「d払い」がおすすめです。d払いは、スマートフォンのアプリをつかって行うキャッシュレス決済です。d払いなら、9,000万人を超えるdポイントクラブ会員に店舗の存在をアピールでき、集客・売上アップが見込めるでしょう。
また、ドコモでは、d払い加盟店で利用できる「スーパー販促プログラム」を提供しています。「スーパー販促プログラム」をつかえば、お客さまに加盟店からのメッセージやキャンペーン情報を配信でき、集客や利用単価アップといった施策ができるようになります。
パン屋の開業の際にキャッシュレス決済を導入する場合は、ぜひドコモのd払いをご検討ください。
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よくあるご質問
パン屋を開業するには、いくら必要ですか?
平均1,027万円。中央値は550万円となっています。小規模店舗でも数百万~1,000万円程度の資金が必要と言われています。自己資金に不安がある場合は、補助金や助成金の利用も検討できます。
パン屋を開くために必要な資格はありますか?
食品衛生責任者の資格が必要です。必ず1店舗に1人以上置くことが義務付けられています。店内の客席数とスタッフの合計人数が30人以上の場合は、防災管理者の資格も必要です。また、パン製造技能士も経営に役立ちます。
パン屋を開業するまでの流れが知りたいです
1年ほどかけて、コンセプト設計・物件選び・資金調達・資格取得・スタッフや設備の準備・広告宣伝・各種手続きの流れで進めていきます。決済手段についても開店までに検討・準備しておく必要があります。
監修者プロフィール
黒川 一美
日本FP協会 AFP認定者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学院修了後、IT企業や通信事業者のセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。
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